はじめに
建設業を営むうえで欠かせない「建設業許可」は、事業の信頼性を示す重要な資格です。しかし、事業承継や組織再編といった経営の転換点において、既存の許可をどう扱うかという点で多くの事業者が悩まれます。
2020年10月の建設業法改正により、一定の要件を満たせば「許可の承継」が制度として明文化され、個人から法人への「法人成り」や相続、合併・分割などを経ても、従来の許可番号や実績を引き継げるようになりました。これにより、事業の継続性を保ちつつ、スムーズな組織移行が可能となっています。
本記事では、建設業許可の承継制度について、分類の仕方や具体的な手続きの流れ、必要書類、そして実務上の注意点までを、千葉の行政書士がわかりやすく解説いたします。これから建設業の事業承継を予定している方や、法人成りを検討している方はもちろん、経営に関わる全ての方にとって参考になる内容をお届けします。
第1章:建設業許可の承継とは
建設業許可の「承継」とは?
建設業許可の「承継」とは、事業者の組織変更や地位の移転などに伴い、これまで取得していた建設業許可を別の者が引き継ぐ制度です。これにより、建設業許可番号や過去の施工実績などを維持しながら、事業の連続性を確保することができます。
たとえば、個人事業主が法人を設立する「法人成り」の際や、会社が合併・分割するケース、あるいは建設業者が死亡した場合の「相続」においても、承継制度を利用すれば、許可の取り直しをせずに継続した営業が可能になります。
「承継」と「新規許可取得」の違い
建設業許可を別の名義に切り替える場合、方法としては大きく以下の2つがあります:
- 新規許可の取得:新たな申請者が一から許可を取り直す。
- 許可の承継:前の建設業者の地位を引き継いで許可を継続させる。
新規取得では、施工実績や許可番号は引き継げず、経審(経営事項審査)などもゼロからやり直す必要があります。一方、承継手続きを適切に行えば、以下のようなメリットが得られます:
- 許可番号がそのまま使える
- 過去の施工実績や経審結果を活用できる
- 顧客や取引先との信頼関係が維持しやすい
- 公共工事の入札資格が途切れない
制度整備の背景
建設業許可の承継制度は、2020年10月の建設業法改正によって明確に整備されました。これにより、かつては実務的に難しかった「許可の引継ぎ」が法的に認められるようになり、事業者にとって大きな利便性の向上が図られました。
とくに高齢化が進む中小建設業者にとって、後継者へのスムーズな事業承継が課題となっており、本制度はその解決策として注目されています。
第2章:建設業許可の承継に関する分類
建設業許可の承継と一口に言っても、承継の背景や方法によって分類が異なります。この章では、実務上理解しておくべき分類の視点を3つに分けて解説します。
2-1. 法的手段による分類
■ 相続
個人事業主が死亡した場合、相続人がその事業を継承するケースです。建設業法第17条の二に基づき、相続発生から30日以内に承継認可申請を行う必要があります。
■ 合併
法人が他の法人と合併し、元の法人が消滅する場合、存続法人または新設法人が許可を承継します。合併前に承継認可を受けることで、許可の空白期間を避けることができます。
■ 会社分割
会社の事業の一部または全部を、他の法人に承継させるケースです。許可の承継が認められるのは、「建設業の全部」が対象となる場合に限られます。
■ 事業譲渡
建設業の全部を第三者に譲渡する場合です。この場合も、承継先が許可の要件を満たし、適切な申請をすれば承継が可能です。
2-2. 承継者の属性による分類
■ 個人 → 個人
個人事業主が親族等に事業を譲渡するケースです。相続ではなく生前に譲渡する場合は、事業譲渡として扱われます。
■ 個人 → 法人(法人成り)
最も多いパターンの一つで、個人事業から法人へ移行する際に、許可を承継します。これにより、実績や許可番号を維持したまま法人として事業を展開できます。
■ 法人 → 法人
グループ企業間の再編やM&Aに伴うケースです。合併・分割・譲渡などの手段で承継する場合、いずれも建設業法上の承継認可が必要です。
2-3. 手続きタイミングによる分類
■ 事前承継(認可承継)
合併、会社分割、事業譲渡などの場合、承継の効力発生日の「前日まで」に承継認可申請を行い、認可を得る必要があります。承継の空白期間を生じさせないために重要です。
■ 事後承継(相続による特例)
相続に限り、事後の承継が認められています。被相続人の死亡を起点とし、30日以内に申請することで、死亡から承継認可までの間も「みなし許可」として営業を継続できます。
このように、承継の分類は単に法的手続きだけでなく、承継者の立場や承継のタイミングによって異なります。分類を正しく把握することで、自社の状況に最も適した承継方法を選択することができます。
第3章:建設業許可承継の流れと必要書類
建設業許可の承継は、単なる名義変更とは異なり、法的な手続きと明確な要件が伴います。この章では、一般的な承継手続きの流れと、各段階で必要となる書類について解説します。
3-1. 承継計画の立案
承継手続きは、何よりも「事前の計画」が重要です。以下の点を確認しておく必要があります。
- 承継の形式(相続・合併・分割・譲渡)
- 承継予定日(効力発生日)の設定
- 承継者が許可要件を満たしているか
- 経営業務の管理責任者
- 専任技術者
- 財産的基礎 など
この段階で行政書士などの専門家に相談し、スケジュールと要件を整理しておくと安心です。
3-2. 必要書類の収集
承継の種類により、提出書類は異なりますが、共通して必要になる主な書類は以下のとおりです:
- 承継認可申請書
- 承継前後の登記事項証明書
- 定款・合併契約書・事業譲渡契約書(該当する場合)
- 承継者の役員の略歴書・住民票
- 経営業務管理責任者・専任技術者の証明書類
- 決算報告書(過去数期分)
また、相続の場合には以下も追加されます:
- 戸籍謄本(被相続人・相続人)
- 遺産分割協議書 など
3-3. 承継認可申請の提出
承継認可申請は、以下の期限を守って所轄の行政庁に提出します。
承継の類型 | 提出期限 |
---|---|
合併・分割・譲渡 | 承継効力発生の前日まで |
相続 | 被相続人死亡の30日以内 |
承継認可の審査には通常2週間~1か月程度かかります。許可の空白期間を避けるためにも、早めの申請が重要です。
3-4. 承継後の手続き
承継認可が下りた後も、以下の手続きが必要になることがあります。
- 営業所に関する届出(設置届・使用権原証明書など)
- 経審の引継ぎ手続き(経営事項審査結果通知書の再交付)
- 建設キャリアアップシステム(CCUS)の情報更新(必要に応じて)
また、許可の有効期間は承継元の事業者のものを引き継ぐため、更新申請のスケジュールにも注意が必要です。
第4章:承継における注意点とよくある誤解
建設業許可の承継は制度として整備されているものの、実務では多くの注意点や誤解が存在します。この章では、トラブルを未然に防ぐために知っておくべきポイントを整理します。
4-1. 「一部のみ」の承継はできない
建設業許可の承継は、「建設業の全部」を承継する場合に限り認められます。業種や営業範囲の一部だけを引き継ぐことはできません。
例:
- ×「土木一式工事だけを引き継ぎたい」
- ○「許可されたすべての業種を引き継ぐ」
そのため、会社分割や譲渡の際には、建設業の事業単位が承継対象となっているか慎重に確認する必要があります。
4-2. 空白期間が生じると営業が違法になる可能性
承継認可が下りるまでの間に営業を開始してしまうと、「無許可営業」とみなされるリスクがあります。とくに合併や事業譲渡では、承継の「前日まで」に認可を取得しておく必要があります。
例外として相続は「みなし営業」が認められますが、それでも30日以内の申請義務があります。
4-3. 経営業務の管理責任者や専任技術者の変更に注意
承継先の事業者が、建設業許可の要件(経営管理責任者・専任技術者など)を満たしていない場合、承継認可が下りません。事前に要件の充足状況をチェックしておくことが不可欠です。
4-4. 決算報告書や各種届出の提出義務も承継される
承継者は、単に許可を引き継ぐだけでなく、旧事業者の義務も一部引き継ぐことになります。たとえば、決算報告書の提出や変更届なども、新しい事業者が責任をもって対応する必要があります。
4-5. 公共工事を継続的に受注する場合は経審の引継ぎも必須
建設業許可そのものは承継できても、経営事項審査(経審)の点数は自動で移行されません。公共工事の入札に参加する場合には、経審の引継ぎ手続きや、再評価の申請が必要になる場合があります。
よくある質問(FAQ)
Q1. 相続で建設業者が死亡した場合、すぐに営業できなくなるのですか?
A. いいえ、死亡日から30日以内に承継認可申請を行えば、その間は「みなし営業」として事業を継続できます。ただし、30日を超えると無許可営業とみなされる可能性があるため、速やかな対応が必要です。
Q2. 承継によって許可番号は変わりますか?
A. 原則として、許可番号はそのまま承継されます。これにより過去の実績や公共工事の履歴も継続して利用可能です。
Q3. 承継できるのは特定建設業だけですか?
A. いいえ、一般建設業・特定建設業を問わず、承継は可能です。ただし、承継者がそれぞれの許可区分に必要な要件を満たしている必要があります。
Q4. 法人成りした後に承継申請を出しても間に合いますか?
A. いいえ、合併・事業譲渡・法人成りなどの場合は、承継効力発生日の「前日」までに承継認可を得ておく必要があります。後から申請しても許可は継続されませんので、スケジュール管理が重要です。
まとめ
建設業許可の承継は、事業の継続性や信用を維持するうえで極めて重要な制度です。とくに法人成り、相続、合併、事業譲渡など、事業主体が変更される際には、建設業法上の「承継手続き」を適切に行うことが不可欠です。
承継にはいくつかの分類があり、手続きや期限、必要書類も異なります。特に注意すべきは、承継認可を得る「タイミング」と「承継要件の確認」です。承継が遅れれば無許可営業となるリスクがあり、公共工事の入札資格にも影響します。
千葉県内でも多くの建設業者が法人成りや事業承継を進めており、行政書士としての実務経験からも、早めの準備と専門家のサポートが円滑な承継の鍵となることは明らかです。
建設業許可の承継を検討されている方は、ぜひ専門家に相談のうえ、確実な手続きを進めましょう。