千葉支部ではいくつかの研究会を定期的に実施しています。今回は市民法務研究会に参加してきました。
法廷相続人と法廷相続分がテーマであり、重要判例である婚外子相続差別訴訟(事件名:遺産分割審判に対する抗告棄却決定に対する特別抗告事件)が取り上げられていました。
行政書士試験でも頻出ですが、今回は実務をイメージしながら考えることができました。以下はその判例の要約になります。
事件の概要
本件は、平成13年7月に死亡したAの遺産について、Aの嫡出子と嫡出でない子の間で生じた遺産分割を巡る争いです。遺産分割の審判を申し立てたのはAの嫡出子たちで、抗告人である非嫡出子たちは、分割される遺産の算出において嫡出子と同等の扱いを求めました。問題とされたのは、民法900条4号ただし書きに基づき、嫡出でない子の相続分が嫡出子の相続分の2分の1に限定されている点です。
原審(東京高等裁判所)は、該当規定が憲法14条1項に規定される法の下の平等に反しないと判断しました。しかし、抗告人はこの規定が憲法に違反し無効であると主張し、特別抗告を行いました。彼らの主張は、嫡出でない子と嫡出子との間で法定相続分に差を設けることに合理的な根拠がなく、差別的な取り扱いにあたるというものでした。
最高裁判所は、相続法が国の伝統や社会事情に根ざして形成されているものの、国際的な法改正の動向や社会の変化を踏まえ、法の平等原則に照らして判断すべきだとし、原決定を破棄し、事件を東京高等裁判所に差し戻しました。
原審の判断
原審(東京高等裁判所)の判断は、嫡出でない子の相続分が嫡出子の相続分の半分であると定める民法900条4号ただし書の規定について、憲法14条1項に違反しないというものでした。この判断は、民法の該当規定が憲法における平等原則に適合するかどうかが主な争点となりました。
東京高等裁判所は、憲法14条1項が法の下の平等を保障していることを認めつつも、法的な差別が全て不当であるわけではなく、事柄の性質に応じた合理的な根拠が存在する限り、差別的取扱いが許されるとの立場を取りました。裁判所は、相続制度自体が各国の伝統や社会事情、国民感情に深く根ざしていること、また、家族という概念が国によって異なり、それに基づく法制度も国によって大きく異なると考えました。
裁判所はさらに、日本の相続制度が長い歴史とともに形成され、改正されてきた背景を踏まえて、立法府が嫡出子と嫡出でない子との間に相続分に差を設けたことについて、合理的な裁量の範囲内であると判断しました。また、嫡出でない子への差別が過去において合理的だったかどうかを評価する際には、当時の社会状況や法制度、国民の意識などが考慮されるべきであるとし、これらの点を根拠に、現行法が憲法に適合すると結論付けました。
このように、原審は嫡出でない子の相続分を嫡出子の半分に限定する現行法の規定が憲法に適合すると判断し、抗告人の主張を退ける形で決定を下しました。この判断は、法律が社会の変化に応じて進化する必要があるという抗告人の主張とは対照的であり、日本の法制度の歴史的および文化的背景を重視するものでした。
最高裁判所の判断基準
最高裁判所の判断基準は、嫡出でない子の相続分が嫡出子の相続分の半分であると定める民法900条4号ただし書の規定が憲法14条1項に違反するかどうかを検討する際の基準です。そこで、最高裁は、法の下の平等を保障する憲法14条1項の解釈を中心に、差別的取扱いが合理的な根拠に基づくかどうかを判断するための基準を設定しました。
最高裁はまず、憲法14条1項が法的な差別を一律に禁止するものではなく、事柄の性質に応じた合理的な根拠がある場合には差別的取扱いが許される可能性があると指摘しました。この点において、相続制度における差別が合理的なものとして認められるかどうかを評価するために、歴史的、文化的背景を含めた広範な社会的要因を考慮する必要があるとしました。
その上で、最高裁は国際的な法改正の動向と日本国内の社会状況の変化を重視しました。具体的には、嫡出でない子と嫡出子の区別を撤廃する方向で進む国際的な潮流と、日本社会における家族の形態の多様化や国民意識の変化を踏まえ、嫡出でない子への法定相続分の差別が今日的な視点から見ても合理的な根拠を持つかどうかを検討しました。
最高裁はこの法律が立法府の合理的な裁量判断の範囲内で制定されたかどうかも重要な判断材料としました。立法府が社会の伝統や国民感情に基づき、相続制度を定めた経緯や背景、そしてその合理性を再評価することが求められました。このような広範な検討を通じて、最高裁は原審の判断を覆し、新たな審理を求める判断を下しました。この基準は、法的な差別の正当性を評価する際に、時代とともに変化する社会的、法的環境をどのように考慮するかを示すものであり、法の解釈において歴史的、社会的文脈を無視できないことを強調しました。
憲法14条1項との適合性
憲法14条1項は、すべての国民が法の下で平等であると規定しています。この条文は、性別、信条、社会的身分などによる差別を禁止し、すべての人々に平等な扱いを保証することを目的としています。本件において問題となったのは、民法900条4号ただし書きにより、嫡出でない子の相続分が嫡出子の相続分の半分に限定されている規定が憲法14条1項に違反するかどうかでした。
原審(東京高等裁判所)は、この規定が憲法14条1項に違反しないと判断しました。これは、相続法における嫡出子と嫡出でない子の間の差異が、合理的な根拠に基づくものであると考えられたためです。原審は、家族法の伝統的な解釈や国民感情を重視し、嫡出でない子と嫡出子との間に設けられた法定相続分の差が、社会的、文化的背景に基づく合理的な差異であるとみなしました。
しかし、最高裁判所は異なる見解を示しました。最高裁は、国内外の法改正の動向や社会の変化、特に家族の概念の多様化と法の平等原則を重視しました。最高裁は、時代に即して再評価する必要があるとし、嫡出でない子に対する法定相続分の削減が現代の価値観と法の公正さに照らして不当な差別にあたる可能性があると指摘しました。
このように、憲法14条1項との適合性を巡る議論は、法的な差別が事柄の性質に応じた合理的な根拠に基づいているか否かに焦点を当てています。最高裁は、社会の進歩とともに法の解釈も進化する必要があり、古い慣習や偏見に基づく差別は再考されるべきだとの立場を採りました。これは、法の下の平等という憲法の基本原理が、現代社会においてどのように実現されるべきかについての重要な指針を提供しています。
判断
最高裁判所の判断では、嫡出でない子の相続分が嫡出子の相続分の半分であると定める民法900条4号ただし書の規定について、憲法14条1項に違反するとの結論に至りました。そして、原審の判断を破棄し、事件を東京高等裁判所に差し戻すことになりました。
最高裁は、法定相続分における嫡出子と嫡出でない子の差異について、その合理的根拠を再評価しました。特に、国際的な法改正の傾向や国内の社会・法制度の変化、人々の価値観の進展を考慮し、これらの変遷が法的な平等を求める憲法14条1項の精神により支持されるかを問い直しました。最高裁は、嫡出でない子に対する差別的扱いが、今日の社会における平等の理念に合致しないと判断しました。
この重要な判断により、最高裁は日本の法体系における家族概念の現代化を促進し、嫡出でない子への法定相続分の取り扱いについて、平等原則に基づく見直しを命じました。これは、相続法の適用における平等原則の実現を求めるものであり、旧来の制度が現代の家族の実情に即していないとの認識に基づくものです。
裁判所の意見
最高裁判所の意見は、嫡出でない子の相続分が嫡出子の相続分の半分に定められている民法900条4号ただし書の規定が憲法14条1項に違反するかどうかを中心に展開されました。この規定が、憲法に定められた法の下の平等という原則に照らして不当な差別を生じさせるか否かが主要な議論の対象でした。
裁判所は、法定相続分における差異が、時代の変遷と共にその合理的な根拠を失っていると指摘しました。特に、国内外での法改正の動向、社会の変化、家族概念の進化を考慮に入れ、法制度がこれらの変化に適応していないことを問題視しました。裁判所は、嫡出でない子と嫡出子の間に法的に設けられた相続分の差が、現代日本社会の価値観や国際的な法の進展に照らして、もはや合理的な根拠を持たないと判断しました。
この点から、裁判所は、嫡出でない子に対する差別的な扱いが憲法によって保障された平等の権利を侵害していると結論づけました。この結論は、法律が個々の人間の尊厳と平等な扱いをどのように保障すべきかという、より広い視野での憲法解釈を求めるものです。裁判所は、相続法の改正を含む、法制度全体の見直しを促す方向性を示しました。
最終的に、裁判所は、原審の判断を破棄し、事件を差し戻すことで、法的な平等を実現するための一歩を踏み出しました。この決定は、法の解釈における社会的、文化的、および法的な進化を反映し、日本の法体系における重要な転換点となりました。
結論
最高裁判所の結論では、嫡出でない子の相続分が嫡出子の相続分の半分であると規定する民法900条4号ただし書が憲法14条1項に違反していると判断されました。この条項はすべての国民の法の下の平等を保障しており、裁判所はこの規定が不当な差別を生じさせていると結論付けたのです。
この判断に至る主な理由として、国内外の法改正の動向、社会の変化、家族概念の多様化などが挙げられました。これらの要素が合わせて示すのは、法定相続分における嫡出でない子と嫡出子の間の区別が、現代社会において合理的な根拠を欠いているという点です。裁判所は、このような差別的な規定が憲法が保障する平等の原則に反すると判断しました。
裁判所は原審の判断を破棄し、事件を東京高等裁判所に差し戻すことを命じました。これにより、再審理を通じて、より公正かつ平等な基準に基づいた遺産分割が行われることになります。また、この決定は、日本の法制度における家族に関する法律、特に相続法の見直しを促す契機となるものであり、立法改正に向けた議論を加速させるものとなりました。