🖊️【はじめに】特定金属類取扱業の新たなルールとは?

令和7年4月1日から施行された「茨城県特定金属類取扱業に関する条例」は、盗品の流通防止や不正取引の抑止を目的として、これまで以上に厳格な規制と本人確認義務を課す内容となっています。

この規則は、昭和32年に制定された「金属くず取扱業に関する条例」を全面改正し、社会情勢の変化や技術の進展に対応した形で再編されたものです。

例えば、従来の書面確認に加え、スマートフォンを使った本人確認や電子証明書を利用した認証など、新しい本人確認手段が導入され、取引の透明性と信頼性の確保が図られています。

また、特定金属類取扱業の許可申請や変更届、廃止届に関しても、明確なルールが定められ、業者の適正な管理と公安委員会の監督が強化されることになります。

この記事では、茨城県公安委員会が定めたこの新ルールの概要を、以下のような観点から詳しく解説していきます。

  • 特定金属類に該当する物品と対象業者
  • 許可申請・変更・廃止手続きの要件
  • 本人確認の方法と免除要件
  • 取引記録と保存義務
  • 公衆閲覧義務の有無

千葉県においても今後、類似の規則が制定される可能性があり、金属スクラップ業者やリサイクル業者を中心に広く影響を与える内容です。本記事を通じて、改正内容の理解を深め、実務上の注意点を確認していただければと思います。

第1章 条例施行規則のポイント

1-1 特定金属類とは何か

今回の施行規則で対象となる「特定金属類」は、次のような物品が明示されています。

  • アルミニウム、鉄、銅またはこれらの合金並びにこれらの製品
  • 自転車その他解体することによりアルミニウム、鉄、銅又はこれらの合金を回収することができる製品として公安委員会規則で定めるもの
  • 自動車の装置であって、当該装置内の部品に塗布されたロジウム、パラジウム又は白金を触媒として自動車排出ガスを浄化するもの

これらは、構成素材に高価値の金属が含まれており、不正な取引によって盗品が流通するリスクが高いとされていることから、条例により「特定金属類」として厳重に管理される対象となっています。


1-2 許可申請の流れと必要書類

▍許可申請の基本的な流れ

特定金属類取扱業を行うには、茨城県公安委員会の許可を受ける必要があり、その際の申請は「主たる営業所を管轄する警察署長を経由して行う」点が大きな特徴です。

▍申請書類の種類(個人・法人別)

区分必要書類の例
個人履歴書・住民票、誓約書、破産者でない証明書、法定代理人の情報など
法人定款、登記事項証明書、役員に関する個人書類、誓約書

とりわけ、申請者が未成年の場合や破産手続中の者である場合などは、個別に追加の書類や条件が定められており注意が必要です。


1-3 廃止・変更届出の義務

営業所の所在地や役員の変更等が生じた場合、事業者は所定の様式により速やかに変更届を提出する義務があります。また、事業を廃止した場合にも、営業所の所轄警察署を経由して廃止届を提出しなければなりません。

特に変更届においては、変更事項に関する書類を添付する必要があり、例えば本店所在地の変更であれば、新しい登記事項証明書の写し等が必要になります。

第2章 本人確認の厳格化

条例施行規則では、本人確認手続の厳格化が大きな柱となっており、盗難品や不正品の流通を防ぐため、取引の相手方が誰であるかを正確に特定することが求められています。特定金属類を取り扱う事業者は、相手方の属性に応じた適切な確認手段を講じ、記録を残さなければなりません。


2-1 多様化する本人確認手段

相手方が個人・法人・外国人のいずれかに応じて、以下のような方法が選択されます。

▍個人の場合

  • 写真付き本人確認書類(例:運転免許証、個人番号カード)の提示
  • 書留郵便+公的書類送付による確認
  • 業者提供のアプリによる画像送信
  • 半導体ICチップ情報の送信(マイナンバーカード等)
  • 電子署名+電子証明書の受信

▍法人の代表者等の場合

  • 登記事項証明書や印鑑証明書の提示
  • 上記に基づく郵便送付確認
  • 電子署名や画像確認も可

▍外国人の場合

  • 有効な旅券の提示
  • 日本国内に住所を持たない場合、住居確認は不要とする特例あり

これらの本人確認手段は、対面・非対面のどちらにも対応できるように整備されており、特にオンラインによる確認方法の整備は、近年の取引形態の多様化に対応したものといえます。


2-2 法人との取引における確認事項

法人取引においては、代表者等の本人確認と、法人の実態確認がともに求められます。

  • 代表者の身元確認(運転免許証、住民票など)
  • 法人の名称や所在地が記載された証明書(登記事項証明書等)
  • 電子証明書の活用による本人認証

特に、法人代表者による本人確認は「書類+書留郵便による住所確認」か「電子的手段(画像・ICチップ・電子証明書)」が原則です。


2-3 本人確認が免除されるケース

以下のような例外的な場合には、本人確認義務が免除されます。

▍本人確認義務がない特定取引

  • 1回の取引金額が200円以下である場合
  • 相手方が「国」「地方公共団体」「独立行政法人」など、一定の公的機関に該当する場合(条例第18条)

免除されるとはいえ、取引記録の作成義務は残るため、安易な省略は避けるべきです。


▍補足:本人確認に用いる書類の範囲

本人確認に使用できる書類は細かく分類されています。

種別有効な本人確認書類の例
個人マイナンバーカード、運転免許証、旅券、障害者手帳など
法人登記事項証明書、印鑑証明書、官公庁発行の所在地証明書等
外国籍政府が認定した旅券や在留カード等

これらの書類は、「有効期限が切れていない」「6か月以内の発行」といった要件も満たす必要があります。

第3章 記録義務と保存方法

本人確認や取引に関する情報を、正確かつ適切に記録・保存することは、条例における最も重要な義務の一つです。事業者がその義務を怠った場合、不正取引の温床となる恐れがあり、行政処分や刑事罰の対象となる可能性もあります。

この章では、本人確認記録と取引記録の作成・保存の方法およびその閲覧義務について解説します。


3-1 本人確認記録の作成と保存

条例第16条に基づき、本人確認を実施した際には、「誰が」「いつ」「どのような方法で」確認を行ったかを文書や電磁的記録等で残す必要があります。

▍記録に残すべき具体的事項

  • 提示または送付された本人確認書類の写し
  • 書留郵便等の発送・配達記録
  • 画像データやICチップ情報の受信記録
  • 電子署名および証明書の内容
  • 取引文書交付の事実を証明する書類(訪問交付時含む)

▍保存方法の種類

本人確認記録は、次のいずれかの形式で保存が可能です:

  • 書面(紙媒体)
  • 電磁的記録(PDF、データベース等)
  • マイクロフィルム(ただし限定あり)

作成された記録は、条例第17条の取引記録と紐付けて保存することが義務付けられています。


3-2 取引記録の保存と閲覧

▍記録内容

条例第17条に基づく取引記録には、以下の情報を漏れなく記載する必要があります。

  • 相手方の氏名・住所・職業等
  • 本人確認を行った年月日・担当者名
  • 売買の品目、数量、価格、日付
  • 本人確認の方法・記録媒体
  • 法人の場合は代表者との関係性
  • 相手方が公的機関等の場合の補足情報

取引記録は、「買取明細書」などを使用し、時系列順に整理して保存するのが一般的です。

▍保存形式

保存には以下の方法が認められています:

  • 紙での保管(営業所内にファイリング)
  • 電子記録(電子帳簿システム、クラウド等)
  • 必要に応じて書面出力可能な形式での保存

3-3 公衆閲覧義務の有無と例外

条例第12条では、特定金属類取扱業者が公衆に向けて事業者情報を開示する義務を定めていますが、一定の要件を満たす場合にはその義務が免除されます。

▍閲覧義務が免除される条件

  • 常時雇用する従業者が 5名以下
  • 事業者が ウェブサイトを保有していない

▍公開すべき事項(原則として)

  • 代表者の氏名
  • 許可を受けた公安委員会名
  • 許可番号・有効期間

情報の掲載方法としては、自社のウェブサイトへの明記が原則とされますが、上記の免除条件に該当する場合は掲示義務がありません。


このように、「記録すること」=本人確認の証明義務の履行であり、「保存すること」=将来の監査・照会への備えになります。電子化が進む中でも、記録の正確性・信頼性を維持する運用体制が不可欠です。

まとめ|特定金属類取扱業に求められる法令対応とは

令和7年4月1日から施行される「茨城県特定金属類取扱業に関する条例施行規則」は、盗品の流通防止と取引の透明性確保を目的に、これまで以上に厳格な規定を事業者に求めるものです。

とりわけ、本人確認の厳格化はこの改正の中心に位置しており、取引の相手方に応じて適切な書類の確認・記録作成・保存を行うことが義務付けられています。また、許可申請や変更届出、廃止届などの行政手続についても、より明確なフローと様式が示され、行政とのやり取りの正確性が求められます。

千葉県でも既に「特定金属類取扱業許可制度」が導入されていますが、他県の施行規則や運用方針は実務対応の見直しの参考になります。 茨城県の新たな規則に見られるように、本人確認の方法や記録義務の水準が全国的に厳格化される傾向にあるため、千葉県内の事業者も、自社の体制が現行ルールに適合しているかを再点検する必要があります。

行政書士としては、申請書類の作成代行や本人確認制度の導入支援を通じて、事業者のコンプライアンス体制強化をサポートしていくことができます。


✅ 行政書士によるサポートが必要な場合は

  • 許可申請書類の作成・提出代行
  • 社内本人確認マニュアルの整備
  • IT導入(画像確認・電子証明書等)の相談

上記のようなサポートをご希望の方は、ぜひ行政書士オフィスおおきまでお気軽にご相談ください。