はじめに
近年、千葉市内の再生資源物を取り扱う屋外保管事業場において、火災の発生が相次いでいます。特に、電子機器を含む雑品スクラップや、電池類・潤滑油などの火災の危険性が高い品目(いわゆる「火災注意品目」)が原因となる事例が多数報告されており、市民生活や周辺環境への深刻な影響が懸念されています。
こうした状況を受けて、千葉市では令和7年4月1日付で「千葉市再生資源物の屋外保管に関する条例施行規則」(以下「施行規則」)の改正が行われました。本改正では、火災防止と延焼リスクの最小化を目的として、新たな定義の導入や保管基準の強化、許可申請書類の見直しなど、事業者の実務に直結する重要な変更が多数盛り込まれています。
特に注目すべきは、「雑品スクラップ」や「火災注意品目」といった火災リスクの高い品目に対する個別の保管基準が新設された点です。これにより、対象となる事業者は令和7年10月1日の基準施行までに施設の整備や必要な届出を行い、改正後の要件に適合させることが求められます。
本記事では、改正された施行規則の具体的な内容と、事業者が取るべき対応について、行政手続きの専門家である行政書士の視点からわかりやすく解説します。法改正への理解を深め、適切な対応を進める一助となれば幸いです。
第1章:条例施行規則の改正概要
改正の施行日と背景
令和7年(2025年)4月1日、千葉市は「千葉市再生資源物の屋外保管に関する条例施行規則」を改正しました。今回の改正は、再生資源物を扱う事業場における火災の多発という社会的背景を受けて行われたものであり、市内全域の安全対策の強化を目的としています。
火災の主な要因としては、使用済み電子機器に内蔵されたリチウムイオン電池や潤滑油など、燃焼しやすい物質が関係するケースが多く見られました。これらの物品は適切な管理がなされていないと、屋外での保管中に発火し、延焼被害を周囲に広げる恐れがあります。
こうした危険性を抑えるため、改正施行規則では、火災リスクの高い資源物を明確に区分し、それぞれに応じた新たな保管基準を定めるとともに、許可申請時に必要な添付書類の見直しが行われました。
新たに定義された資源物
改正施行規則により、以下の3つの新しい定義が導入されました。これらは今後の保管基準や表示義務、許認可手続きに直接影響します。
1. 雑品スクラップ
定義:再生資源物のうち、電子機器または電気機器(処理済みで内部が取り除かれていないもの)を含むもの。
パソコン、家電、携帯電話などの使用済み電子製品が該当します。これらは電池類を含む可能性が高く、発火リスクのある対象物と見なされます。
2. 火災注意品目
定義:電池や潤滑油など、火災の発生または延焼の恐れがある再生資源物。
例として、リチウム電池、バッテリーオイル、ガス入りスプレー缶などが想定されます。
3. 不燃材料
定義:建築基準法第2条第9号に規定される不燃材料。
囲いや保管場の構造において重要な要件となる素材であり、火災時にも燃焼しないことが科学的に認められている資材が該当します。
この章では、施行規則改正の背景と、導入された新たな定義を中心にご紹介しました。次章では、実際の保管場に求められる具体的な保管基準の変更点について詳しく解説いたします。
第2章:新たな保管基準のポイント
今回の施行規則改正では、「雑品スクラップ」と「火災注意品目」に対して、従来の再生資源物とは異なる個別の保管基準が新たに設けられました。また、保管場所の掲示板の記載方法についても明確なルールが定められ、より一層の可視化と安全管理が求められるようになっています。
以下に、変更点を項目別に詳しく解説します。
1. 掲示板の記載義務と表示内容
令和7年10月1日以降、保管場の掲示板には保管物の種別に応じた記載が義務付けられます。事業者は、現地表示を適切に行い、来訪者や近隣住民、関係当局が現場の状況を即座に把握できるよう配慮しなければなりません。
🔸記載の例:
- 「雑品スクラップの屋外保管の場所」
- 「火災注意品目の屋外保管の場所」
- 「再生資源物の屋外保管の場所」(従来通り)
その他の必要事項:
- 管理者氏名
- 連絡先電話番号
- 保管高さ
このような表示を徹底することで、事故発生時の対応迅速化や、外部からのチェック体制の強化が図られます。
2. 雑品スクラップの保管基準
雑品スクラップは特に火災リスクが高いため、保管場所には以下のような厳格な物理的要件が課されます。
✅ 主な基準内容:
- 囲いの材質:
屋外保管事業場の周囲および雑品スクラップの保管場は、不燃材料で囲わなければなりません。 - 三方囲いの設置:
保管場の周囲3面に不燃材料製の囲いを設置する必要があります。なお、平置きは禁止です。 - 保管場所間の間隔:
雑品スクラップの保管場は、隣接する他の保管場や延焼のおそれがある物から3メートル以上の間隔を空ける必要があります。 - 通路の道幅:
消防活動のため、事業場入口から雑品スクラップの保管場までの通路幅は6メートル以上を確保しなければなりません。
3. 火災注意品目の保管基準
火災注意品目(電池、潤滑油等)についても、以下のような独自のルールが導入されました。
✅ 主な基準内容:
- 延焼物の周囲配置禁止:
火災注意品目の保管場所の周囲には、延焼の恐れがある資材や設備を置いてはいけません。 - 電池類の区分管理:
火災注意品目のうち、特に電池類は他の品目と混載せずに分離保管する必要があります。
これらの基準はすべて、令和7年10月1日より法的効力を持って適用されるため、事業者はそれまでに必要な施設改修や区画整理を終える必要があります。また、行政による立入検査も順次行われる予定ですので、準備の遅れは行政指導や処分の対象となるおそれがあります。
第3章:申請手続きの変更点
令和7年4月1日の施行規則改正により、「雑品スクラップ」や「火災注意品目」を取り扱う事業者は、これまでの許可申請手続きに加えて新たな書類の提出や届出の義務が生じます。本章では、手続きの具体的な変更点を、事業者の状況に応じて分類しながら解説します。
1. 申請書様式の改正と追加書類の提出
これまでの「設置許可申請書」や「変更許可申請書」に加え、以下の書類の提出が必要となりました。
✅ 新たに求められる添付資料
- 屋外保管事業場の構造を示す図面類
・平面図、立面図、断面図、構造図
・設計計算書(特に構造の安全性を証明するもの) - 囲いの不燃性を示す資料
・壁面の写真と資材の仕様書(商品カタログ等でも可)
・計画段階であれば使用予定の不燃材料の資料
※図面は、雑品スクラップ・火災注意品目・その他資源物の保管区画が識別できるように明示する必要があります。また、フリーハンドや不鮮明な資料は受理されません。
2. 事業者の状況別:必要な手続き一覧
施行規則の改正により、事業者の状況に応じた以下のような届出・申請手続きが求められます。
(1)現在すでに雑品スクラップを扱っている事業者
- 必要手続:
令和7年5月末までに「雑品スクラップの屋外保管の有無に関する変更届出書(要綱様式第1号)」を提出 - 添付資料:
上記の図面類・不燃材料の証明書類を添付 - 備考:
10月1日以降は保管基準に適合している必要あり。未対応の場合、行政指導や処分の対象になります。
(2)今後新たに雑品スクラップの保管場を設置する予定の事業者
- 必要手続:
「変更許可申請」が必要(従来の設置許可とは別) - 備考:
新設にあたっても、新保管基準をすべて満たす必要があります。
(3)雑品スクラップを扱っていない事業者
- 必要手続:
届出は不要。ただし、火災注意品目を取り扱う場合は保管基準が適用されるため、管理の徹底が必要です。
(4)改正施行時点で申請中だった事業者
- 必要手続:
「雑品スクラップの屋外保管の有無に関する変更届出書(様式第1号)」を追加提出し、既存の申請内容を修正 - 添付資料:
上記と同様の図面・不燃材料に関する書類
3. 手続きの流れと注意点
以下のようなスケジュールと流れで準備を進める必要があります。
📅 スケジュール概要:
時期 | 内容 |
---|---|
令和7年4月1日 | 改正施行規則の施行開始 |
令和7年5月末 | 変更届出書の提出期限(現状取り扱い事業者対象) |
令和7年10月1日 | 保管基準の完全施行/立入検査開始 |
⚠️ 注意点:
- 保管基準への適合が確認できない場合、改善命令や行政処分の対象となるおそれがあります。
- 工事が間に合わない場合は、早めに**千葉市環境局資源循環部 産業廃棄物指導課**に相談を。
第4章:今後のスケジュールと事業者の対応
条例施行規則の改正により、再生資源物を取り扱う事業者は、保管基準の整備と手続きの完了を期限内に行うことが義務となります。本章では、今後のスケジュールとともに、事業者が取るべき具体的な対応を時系列で解説します。
1. 令和7年5月末:変更届出の提出期限(特例措置)
改正施行規則が4月1日に公布されたことを受け、すでに雑品スクラップを保管している事業者は、令和7年5月末までに「雑品スクラップの屋外保管の有無に関する変更届出書(様式第1号)」を提出しなければなりません。
この届出は、次の目的で求められています:
- 保管区画の明示(平面図・構造図の提出)
- 不燃材料の使用確認(写真・資材情報の添付)
- 行政による事前確認の円滑化
なお、この届出期限を過ぎた場合には、「変更許可申請」という通常の手続きが必要となり、審査期間や手続き負担が増大する可能性があります。
2. 令和7年10月1日:新保管基準の施行・立入検査開始
同年10月1日より、改正後の新たな保管基準が本格的に施行され、行政による立入検査や現地確認が段階的に実施されます。
この時点で、以下の条件をすべて満たしている必要があります:
- 不燃材料による囲いの設置
- 保管場間の適正な間隔(3m以上)
- 消防活動用の通路幅(6m以上)
- 掲示板への種別表示と情報記載
- 火災注意品目の適切な分離管理(特に電池類)
保管基準への適合が確認できない場合には、行政指導のほか、改善命令・使用停止命令等の行政処分が科される可能性があります。
3. 以降の対応と注意点
✅ 工事が間に合わない場合
保管場の整備が10月1日に間に合わない場合は、早急に千葉市産業廃棄物指導課へ連絡し、対応方針について相談することが推奨されます。
✅ 今後保管を開始する場合
雑品スクラップや火災注意品目の保管を新たに開始する予定がある事業者は、事前に「変更許可申請」を行い、許可を取得する必要があります。無届設置は条例違反となるため注意が必要です。
✅ 書類の変更が生じた場合
提出した平面図と実際の保管場の構造が異なる場合は、通常の変更届の提出が必要です。行政の判断により、再調査や指導が行われることがあります。
4. 行政の支援と相談体制
不明点や疑問がある場合は、千葉市環境局資源循環部 産業廃棄物指導課 再生資源物担当で個別相談が可能です:
行政も円滑な移行に向けて相談体制を整備していますので、早期に連絡を取り、無理のないスケジュールで対応を進めることが推奨されます。
まとめ
令和7年に改正された「千葉市再生資源物の屋外保管に関する条例施行規則」は、近年多発する火災事故への対策として、雑品スクラップや火災注意品目の管理を強化する大きな一歩となりました。火災リスクの高い物品を明確に定義し、それぞれに応じた保管基準や手続き要件を設けることで、より安全で持続可能な資源循環の実現を目指しています。
本記事では、以下の重要ポイントを解説しました:
- 新たに導入された定義(雑品スクラップ、火災注意品目、不燃材料)
- 令和7年10月1日から適用される保管基準(囲いの材質、間隔、通路幅など)
- 事業者の状況に応じた届出・許可申請の違い
- 申請書類に求められる添付資料と注意点
- 対応スケジュールと立入検査への備え
対象となる事業者は、令和7年5月末までの届出提出および10月1日までの施設整備完了を念頭に置き、速やかに準備を進める必要があります。法令に基づく適正な手続きは、事業の信頼性を高めるだけでなく、地域社会との共存にもつながります。
不明点や具体的な申請方法について不安がある場合は、行政書士などの専門家にご相談ください。当事務所でも、保管場の構造確認から申請書類の作成、行政との折衝まで、一貫したサポートをご提供しております。